……? …
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      



何十年もという長きに渡って続いていたあの大戦が、
どのように終焉を迎えたのかを、実は七郎次はよく知らない。
結果として最終決戦となった格好の、
それは大規模な陣営同士が衝突した会戦の場にいたにも関わらず。
前線で搭乗していた斬艦刀が爆風で叩き折られるというアクシデントに見舞われ、
その峰に乗り、刀を振るっていた勘兵衛ともそのまま生き別れとなってしまい。
しかも そのまんま5年ほどを、
どなたの配慮か生体維持装置の中にて眠って過ごす羽目になったものだから。
目に見えての惨敗を思い知るとか、
問答無用という格好で上からの通達を聞くとか、
そういう形で知った身ではなく。

  つまりは、直接 肌身で経験してはいないものだから。

これもその余波というものか。
自分が目を覚ました世界は現実なのか、
それとも、死線をさまよった挙句の
狂気が生み出した幻想なのかの区別も難しかった時期があったほど。
そんな自分が流れ着いた先は商人中心の街であり、
それまでいた戦場から見ればずんと後方。
そんな世界から、つまりは軍人からたいそう遠い位置から、
戦後の世間を見渡せたことが却ってよかったのかも知れぬ。

 『北が負けたのは戦力の差のせいではなく、
  南の元帥の方が商人には御しやすかったから、
  ここいらで消耗ばかりの戦さを終わらせるべぇと 南に勝たせたのだ』

あの大戦に決着をつけさせたのも、実のところは商人だという噂、
ものの喩えじゃあないかも知れぬと、思ったこともなくはなかった七郎次だが。
それもまた あっと言う間に“詮無きこと”と吹っ切れたほど、
世界がどんどんと商人が牛耳るそれへと化してゆき。
無用の存在となった軍人たちは、融通が利かぬ者ほど早々と野に放たれ、
浪人と呼ばれて衰退してゆく様を、口惜しいがそれでも破綻なく理解も出来た。
理解出来たが、切なさもひとしおで、
ああそういえば、あの義に厚くて頑迷な勘兵衛様は、
戦さへの采配は柔軟でいらしたが、
自分の身の護りようは途轍もなく不器用でおいでだったから。
生きておいでなら、それは苦労していなさるんじゃなかろうか。
私のように小利口な者が付いていないと、
諍いの鎮め方には聡くとも、
自分も疎まれずに…という方向のそれじゃあないに違いなく。
そんなこんなで居所も定まらぬままでおいでじゃあないのかしらと、
気を揉めるようになったのは、どれくらいしてからだったろか……。




      ◇◇


 その“前世”の生涯の、前半をそれで塗り潰されていたも同然だった“大戦”という世相の中。自分が飛び込んだのは、ともすれば、破綻とか終末とかへ向かう兆しのようなもの、あちこちに感じなくはなかった頃合いだったけれど。それでも気骨逞しい“もののふ”でいられたは、戦略家なのに不器用で、不器用ながらも情に厚い、そんな上官に恵まれたことと それから。跳ねっ返りだった新入りが伸び伸びと育つよう、頼もしい寛容さで見守ってくださった、気立てのいい先輩たちにも恵まれていたからで。紅蜘蛛や雷電どころか戦艦をさえぶった切る、あの“超振動”の生みの親ではないかとまで言われたお人だったほどの、剛剣振るう隊長様を初めとする、北軍指折りの練達ぞろいな島田隊の中でも。特に際立つ存在感から“双璧”と呼ばれておいでだったお二方。佐伯征樹、丹羽良親といえば、斬艦刀の操縦や、武術体術、刀剣術の腕前はもちろんのこと、戦隊運用も、奇襲への呼吸のはかりようも、それは絶妙で冴え渡っており。歴戦の猛者とは到底見えぬ うら若き風貌を大きく裏切り、

  味方でよかった、
  敵に回したらこんな恐ろしい男どもはおらぬと

 他の部隊どころか、南の練達にさえ言わしめたほど。そんな強わものであらしゃったはずの彼らでさえ、苛烈を極めた末期の戦局の中、戦力不足・指揮者不足という窮状から、よその部隊へ指揮担当として彼らが回される機会が増えて。陰の噂では…この期に及んで勘兵衛の優秀さを羨む者らが、詰まらぬ妬心から横槍を入れた策謀との説もあったほど それが頻繁となり。そんな慌ただしさの錯綜を貫いて、良親が 戦死したという一報が届いたのも、派遣先の別動隊での作戦執行中のこと。遺体は見つからなかったそうだが、空艇部隊ではそれも致し方なく。それでも…その頃には相当にキャリアを積んでいて、もはや跳ねっ返りではなくの“鬼の副官”とまで呼ばれていた七郎次が、何日かは目許を赤く腫らしていたほど惜しまれた急逝を。已なきことと飲み込み、心 落ち着かせる暇間もなく、あの悪夢の最終決戦が戦端を開いてしまったワケで……。

 「遺体が戻らないのは当時の常。
  それでも、亡骸を見ないで亡くなられたと信じるなんて出来なかった。」

 まだまだ無垢な新兵だった頃は お調子よくからかわれもしたが、それ以上に、気にかけていただきの、構っても庇ってもいただき。実の血縁でもこうは懐かぬ慕わぬというほどに、大好きだったお方がた。姿の優しさと裏腹、実は強情で利かん気だった七郎次が、それで進退窮まるほども困ると頼りにしたほど 気を置かず、そして、周囲からはなかなか理解されぬ上官を支えるという役回りでも、苦楽を共にした同志であって。だからこそ、悲しさとそれから理不尽さのようなものが尾を引きもし、単なる紙切れ一枚の報告なんぞで“戦死”と告げられても、納得が行かぬ七郎次だっただけに、

 「こんなにも間近におわしたのに…。
  どうして生きていると、
  顔を出しての名乗り上げをして下さらなんだのですか。」

 「……七郎次、落ち着け。」

 それは前世での話だろうがと、征樹が思わずフォローしてしまうほど。日頃、同世代のお嬢様がたからは群を抜いて、それは落ち着き払ったところが評価されてもいた令嬢であったはずが。今はどうにも感情的になり、大きに混乱しているらしき七郎次であり。

  ……そしてそして

 まだ涙の余韻も残したままの、可憐な女子高生にすがりつかれたといっても。それをすげなく振り切り切れないような、尻腰の弱い、はたまた甘い男じゃあないのだろうに。現に、

 「お前も落ち着いたほうが良いんじゃないのか?」
 「何だと?」

 今の“七郎次”って呼びかけは、草野画伯のご令嬢への声掛けじゃあなかったように聞こえたがと。ちろりと斜めに構えた目線でもって、お前まで 白百合さんと同じレベルでうろたえてないかと、暗に揶揄して来た良親さんであったりし。一応のフォロー役が相手でも そんな憎まれをペロッと口に出来もするよなところは、

 “こういうところは曾てのこいつにもあったことだが。”

 殊勝になられた方がきっと困るよという、佐伯刑事のしょっぱそうな苦笑も届かぬか。犯人確保の騒然とした場からは一旦離れようとした折も、佐伯刑事が大雑把ながらコトの次第を駆けつけた所轄の皆さんへ話していた間中のずっと。犯人と同じ恰好の良親を連行されぬようにか、はたまた、どさくさ紛れに彼が姿を消すんじゃなかろかと危ぶんでか。昔と変わらぬ ちょっぴり甘やかなお顔で、意味深に微笑みかけられても怯みもせずに。じいっと見つめたまんまとなって、その傍らから離れなかった七郎次であったし。そこから離れ、警視庁内の一室へと場を移したというに、まだまだそう簡単には落ち着けないか、そして、手を放せばそのまま彼が逃げて行ってしまうとでも思うのか。やはりやはり、すぐ傍らに腰を落ちつけの、二の腕を掴みしめたままという拘束ぶりであり。どんだけ信用されてない男なのだかと、関係者各位から失笑を買ってもいたのだが、まま それは後日のお話だとして。

 「シチっ。」
 「シチさんっ。」

 身柄を無事に確保したと佐伯刑事からの連絡を受け、ごたつく現場ではなくの、こちらで落ち合うよう指示をした勘兵衛が案内したのだろう。一般人には許可なく入室不可能なエリアだというに、上背のある銀髪の壮年殿とともに、セーラー服姿のお嬢様二人が勢いよく飛び込んで来。しょんもりと肩を落として、どこかしょげておいでの七郎次だと見るや。常の気丈さを知っていればこそ、怖い想いをしたのか、まさか怪我でも負ったのかと、気遣うお顔で駆け寄ったものの。

 「…………?」

 そんな彼女が手を放さないまま、同じソファーに並んで腰掛けていた人物へ。最初の一瞥は、得体の知れぬ男が、何でそんなまで間近にいる…という尖ったそれだった紅ばら様。だがだが、

 「……………あ。」

 相手のお顔を凝視していて、気がついたことがあったらしく。ふんわりとした綿毛の前髪を透かした向こう、紅色の双眸を見開いたまま動かない彼女へ、続いて…遅ればせながら気づいた平八が、

 「久蔵殿? どうしましたか?」

 今度はこちらのお友達を案じてのこと。固まりかけてる白いお顔の前で、目を覚ませ〜と小さな手をひらひらと振って見せると、

 「…っ☆」

 いかにもお約束、魔法が解けたように ぱちりと瞬きをして見せてから。おもむろにゆっくりと腕を伸ばした久蔵が、相手を指差しながら口にした一言が、

 「結婚屋。」
 「……え?」

 意味が判らなくての“は?”というお顔になったのが、平八と五郎兵衛、佐伯刑事ならば。何だそりゃという苦笑を精悍なお顔へ浮かべたのが、一番最後になり、後ろ手にドアを閉めたばかりだった勘兵衛で。此処は警視庁内の、取り調べではない来客への応対に使われる1室、特に誰へという気兼ねは要らない空間ではあるが、それでも

 「顔見知りだったのですか、久蔵殿。」
 「………。(頷、頷)」

 何てまあ意外なことと思わず半眼見開いたひなげしさんなのへ、そか?とそこへは冷静な応対を示した紅ばらさんだったりし。お嬢様二人、そんなやり取りになる傍らでは。意外ではあれ、頼もしい知己があったものよと五郎兵衛が苦笑をし。そしてそして、

 「結婚屋というのはどういう意味なんだ?」
 「俺に訊かれてもな。」

 こちらは こそりとながら、かつての戦友二人が、当時を彷彿とさせよう、歯に衣着せぬ遠慮のなさにて言葉を交わし合う様が。勘兵衛には何とも微笑ましい有り様に見えてしょうがなく。どうにも遣り切れぬ状況下に身を置くこと、余儀なくされていた曾ての戦場で。負わされた責務、重いからこそ投げ出せぬという、何とも要領の悪かった頑迷な上官をよく支えてくれた二人と一人。彼らが貧乏くじに付き合う義理はなかっただろに、時に人から嫌われ疎まれる立場を買って出てまで、傍らに居てくれて。そんな過去を覚えておればこそ、自分が何も負わなければ、見かねた誰ぞに何かを負わすこともなかろうと、それでの人とは関わるまいと構えていたはずが。なのに不思議と、気がつけば。戦後、素浪人となった頃にも、そして現在の自分の周囲へも、それなり頼もしいお歴々が集い来ており。にぎやかながら活気のある様相に、やれやれという失笑がその口許へと つい浮かんだものの。

 「…勘兵衛様。」

 そんな彼らに取り囲まれている七郎次へは、ようやっと、その無事な姿を見たという安堵が胸元暖めたほどだったのに。なのにどうしてだろうか、同じ口許がついつい引き締まってしまった勘兵衛だったのへ、

 「相変わらずですよね。」
 「……何がだ。」

 説教の1つもぶってやろうと仕掛かった“彼女”ではなく。彼女の傍らからの声により、ますますのこと…今度は眉根が寄った警部補殿。そこへと畳み掛けられたのが、

 「そうなんだよな。
  無鉄砲をして皆を案じさせた七郎次を、
  それでもまずは無事でよかったと ねぎらってるところへ来合わせるとサ。
  一人くらいは叱らにゃあと思うのか、苦虫かみつぶしたような顔になって。」

 そういうところが今も変わらぬと。双璧の相棒が、こちらさんは今世でもお付き合いが長いにもかかわらず、日頃は言いたくても言えなんだものか。ここぞとばかりという高姿勢にて、詳細を付け足して来たものだから。そんな彼らの言いたい放題へだろう、むむうとあからさまに不機嫌そうなお顔になってしまった、いい歳をした誰かさんとは真逆の反応、

 「……え?//////////」

 たちまち…キョトンとしつつも、どういう意味合いが含まれていたかは聞こえていたか。今世の彼女にはふさわしい反応、頬をぽうと染めてしまう、可愛らしい七郎次なのへとますますの加勢。平八がにっぱり微笑っての口にしたのが、

 「それって、
  気に入りの女の子へほど素っ気ない態度を取る、
  余裕のない青二才のすることですよね。」

 容赦のない冷やかしならば、

 「……。(頷、頷)」

 うむうむと。こういうことには実は疎いだろう久蔵からまで、もっともらしい“確かに道理”という態度を取られてしまっては。中立を守ろうとしかかっていた五郎兵衛も、さすがに掛ける言葉もない模様で。そんな集中砲火にあっては、島田警部補、さしもの男っぷりさえ たじろぐというもので。

 「〜〜〜〜。」

 言葉に詰まっての多勢に無勢で形勢逆転。待て待て、形勢も何も まだ一言だって言うてはおらんぞと、せめて筆者へくらいは異議申し立てをしたいらしかった、敏腕警部補の珍しい焦りっぷりだったそうでございます。





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  *ああ、しまった。
   事件の方の真相とか裏側とか、
   結婚屋さんが何でまた一枚咬んでたかとか、
   肝心なところまで書けなかった、すいません。


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